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VDSO(7) Linux Programmer's Manual VDSO(7)

名前

vDSO - 仮想 ELF 動的共有オブジェクトの概要

書式

#include <sys/auxv.h>

void *vdso = (uintptr_t) getauxval(AT_SYSINFO_EHDR);

説明

"vDSO" (virtual dynamic shared object; 仮想動的共有オブジェクト) は、 カーネルが自動的にすべてのユーザー空間アプリケーションのアドレス空間にマッピングを行う小さな共有ライブラリである。 vDSO はほとんどの場合 C ライブラリから呼び出されるため、 アプリケーションは通常これらの詳細を自分では気にする必要はない。 このように、 標準関数と C ライブラリを使って通常の方法でコードを作成することで、 vDSO 経由で利用可能な機能が活用されることになる。

いったいなぜ vDSO は存在しているのか? カーネルが提供するシステムコールのいくつかは、 ユーザー空間のコードがこれらのシステムコールを頻繁に呼び出すことになり、 このような呼び出しが全体の性能を支配するようになる場合がある。 これは、 呼び出しの頻度と、 ユーザー空間から抜けてカーネルに入ることによるコンテキストスイッチのオーバーヘッドの両方に起因する。

この文書の残りの部分は、 一般の開発者向けというではなく、 好奇心がある人と C ライブラリの開発者向けの内容となっている。 もしあなたが C ライブラリではなく自分のアプリケーションで vDSO を呼びだそうとしているのであれば、 ほとんどの場合間違ったことをしていることだろう。

システムコールの呼び出しは遅くなる場合がある。 x86 32 ビットシステムでは、 システムコールを呼び出したいことをカーネルに教えるためにソフトウェア割り込み (int $0x80) を使うことができる。 しかしながら、この割り込みはコストがかかる処理である。 割り込みがあると、 カーネルとプロセッサーのマイクロコードの両方のすべての割り込み処理パスが実行される。 新しいプロセッサーには、 システムコール呼び出しを起動するための高速な (だが、後方互換性がある) 命令が用意されている。 C ライブラリが実行時にこの機能が利用できるかを確認するのではなく、 C ライブラリは vDSO でカーネルが提供する関数を使うことができる。

用語が紛らわしい点には注意が必要である。 x86 システムでは、 システムコールを呼び出す推奨される方法を判定するのに使用される vDSO 関数は "__kernel_vsyscall" という名前だが、 x86_64 では、 "vsyscall" という用語は、 カーネルに時刻はいつかや呼び出し元はどの CPU 上にいるかを問い合わせるための廃止予定の方法も参照している。

頻繁に使用されるシステムコールの一つが gettimeofday(2) である。 このシステムコールは、 ユーザー空間アプリケーションから直接呼び出されることも、 C ライブラリから間接的に呼び出されることもある。 タイムスタンプが必要な場面、 タイミングループを行う場面、 ポーリングを行う場面を考えてほしい。 これらはいずれも現在時刻が何かを直ちに知りたいのが普通である。 また、この情報は秘密ではなく、 (ルートでも非特権ユーザーでも) 任意の特権モードの多くのアプリケーションが同じ情報を取得できる。 したがって、 カーネルはこの質問に応えるのに必要な情報をプロセスがアクセスできるメモリー上に配置する。 これにより、 gettimeofday(2) はシステムコールから通常の関数コールになり、 少ないメモリーアクセスになる。

vDSO を見つける

vDSO のベースアドレスは、 (存在する場合には) カーネルから各プログラムに初期補助ベクトル (getauxval(3) 参照) の AT_SYSINFO_EHDR タグ経由で渡される。

vDSO がユーザーのメモリーマップの何か特定の場所にマッピングされると仮定してはならない。 通常新しいプロセスイメージが作成されるたびに (execve(2) 実行時点) 、 実行時にベースアドレスのランダム化が行われる。 これは "return-to-libc" 攻撃 を防ぐためにセキュリティ上の理由から行われる。

アーキテクチャーによっては AT_SYSINFO タグもある。 このタグは vsyscall エントリーポイントの場所を知るためだけのものであり、 しばしば省略されるか (利用できない場合は) 0 にセットされる。 このタグは最初の vDSO の実装で使用されていたものであり (下記の「歴史」を参照)、 このタグを利用するのは避けるべきである。

ファイルフォーマット

vDSO は完全な形式の ELF イメージなので、 vDSO に対してシンボルの検索を行うことができる。 このため、 新しいカーネルリリースで新しいシンボルを追加することができ、 C ライブラリが別のバージョンのカーネル上で動作する際に実行時に利用可能な機能を検出することができる。 多くの場合、 C ライブラリは最初の呼び出し時に検出を行い、 それ以降の呼び出しで利用できるようにその結果をキャッシュする。

すべてのシンボルは (GNU のバージョンフォーマットを使って) バージョンが付けられている。 これにより、 カーネルは後方互換性を持たせつつ関数のシグネチャーを更新することができる。 つまり、 関数が受け取る引き数や返り値が変更されることがあるということである。 したがって、 vDSO のシンボルを検索する際には、 自分が期待する ABI に一致するバージョンをしなければならない。

通常は vDSO はすべてのシンボルに "__vdso_" か "__kernel_" というプレフィックスを付けるという慣習に従った名前付けを行っており、 他の標準のシンボルから区別することができる。 例えば、 "gettimeofday" 関数は ""__vdso_gettimeofday" という名前になっている。

これらの関数を呼び出す場合は標準の C の呼び出しの慣習にしたがっておけばよい。 特殊なレジスターやスタックの動作に気を使う必要はない。

注意

ソース

カーネルをコンパイルする際に、 vDSO コードはコンパイルされリンクが行われる。 通常はアーキテクチャー固有のディレクトリに vDSO コードが生成される。


find arch/$ARCH/ -name '*vdso*.so*' -o -name '*gate*.so*'

vDSO 名

vDSO の名前はアーキテクチャーにより異なる。 この名前は glibc の ldd(1) の出力などに現れる。 名前はコードで必要となることはなく、 名前をハードコードしないこと。

ユーザー ABI vDSO 名
aarch64 linux-vdso.so.1
ia64 linux-gate.so.1
ppc/32 linux-vdso32.so.1
ppc/64 linux-vdso64.so.1
s390 linux-vdso32.so.1
s390x linux-vdso64.so.1
sh linux-gate.so.1
i386 linux-gate.so.1
x86_64 linux-vdso.so.1
x86/x32 linux-vdso.so.1

アーキテクチャー固有の注意

以下のサブ章では vDSO のアーキテクチャー固有の注意について説明する。

使用される vDSO は、 カーネルの ABI ではなく、 ユーザー空間コードの ABI に基づくことに注意すること。 したがって、 例えば、 i386 32 ビットの ELF ライブラリ上で実行する場合、 i386 32 ビットカーネル上で実行されているか x86_64 64 ビットカーネル上で実行されているかに関わらず同じ vDSO が得られる。 したがって、 以下のどの節が関係するかを判断する際にはユーザー空間 ABI の名前を使用する必要がある。

The ARM port has a code page full of utility functions. Since it's just a raw page of code, there is no ELF information for doing symbol lookups or versioning. It does provide support for different versions though.

For information on this code page, it's best to refer to the kernel documentation as it's extremely detailed and covers everything you need to know: Documentation/arm/kernel_user_helpers.txt.

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_rt_sigreturn LINUX_2.6.39
__kernel_gettimeofday LINUX_2.6.39
__kernel_clock_gettime LINUX_2.6.39
__kernel_clock_getres LINUX_2.6.39

As this CPU lacks a memory management unit (MMU), it doesn't set up a vDSO in the normal sense. Instead, it maps at boot time a few raw functions into a fixed location in memory. User-space applications then call directly into that region. There is no provision for backward compatibility beyond sniffing raw opcodes, but as this is an embedded CPU, it can get away with things—some of the object formats it runs aren't even ELF based (they're bFLT/FLAT).

For information on this code page, it's best to refer to the public documentation:
http://docs.blackfin.uclinux.org/doku.php?id=linux-kernel:fixed-code

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_sigtramp LINUX_2.5
__kernel_syscall_via_break LINUX_2.5
__kernel_syscall_via_epc LINUX_2.5

The Itanium port is somewhat tricky. In addition to the vDSO above, it also has "light-weight system calls" (also known as "fast syscalls" or "fsys"). You can invoke these via the __kernel_syscall_via_epc vDSO helper. The system calls listed here have the same semantics as if you called them directly via syscall(2), so refer to the relevant documentation for each. The table below lists the functions available via this mechanism.

関数
clock_gettime
getcpu
getpid
getppid
gettimeofday
set_tid_address

The parisc port has a code page full of utility functions called a gateway page. Rather than use the normal ELF auxiliary vector approach, it passes the address of the page to the process via the SR2 register. The permissions on the page are such that merely executing those addresses automatically executes with kernel privileges and not in user space. This is done to match the way HP-UX works.

Since it's just a raw page of code, there is no ELF information for doing symbol lookups or versioning. Simply call into the appropriate offset via the branch instruction, for example:


ble <offset>(%sr2, %r0)

オフセット 関数
00b0 lws_entry
00e0 set_thread_pointer
0100 linux_gateway_entry (syscall)
0268 syscall_nosys
0274 tracesys
0324 tracesys_next
0368 tracesys_exit
03a0 tracesys_sigexit
03b8 lws_start
03dc lws_exit_nosys
03e0 lws_exit
03e4 lws_compare_and_swap64
03e8 lws_compare_and_swap
0404 cas_wouldblock
0410 cas_action

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。 * のマークが付いた関数は、カーネルが PowerPC64 (64 ビット) カーネルの場合にだけ利用可能である。

シンボル バージョン
__kernel_clock_getres LINUX_2.6.15
__kernel_clock_gettime LINUX_2.6.15
__kernel_datapage_offset LINUX_2.6.15
__kernel_get_syscall_map LINUX_2.6.15
__kernel_get_tbfreq LINUX_2.6.15
__kernel_getcpu * LINUX_2.6.15
__kernel_gettimeofday LINUX_2.6.15
__kernel_sigtramp_rt32 LINUX_2.6.15
__kernel_sigtramp32 LINUX_2.6.15
__kernel_sync_dicache LINUX_2.6.15
__kernel_sync_dicache_p5 LINUX_2.6.15

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_clock_getres LINUX_2.6.15
__kernel_clock_gettime LINUX_2.6.15
__kernel_datapage_offset LINUX_2.6.15
__kernel_get_syscall_map LINUX_2.6.15
__kernel_get_tbfreq LINUX_2.6.15
__kernel_getcpu LINUX_2.6.15
__kernel_gettimeofday LINUX_2.6.15
__kernel_sigtramp_rt64 LINUX_2.6.15
__kernel_sync_dicache LINUX_2.6.15
__kernel_sync_dicache_p5 LINUX_2.6.15

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_clock_getres LINUX_2.6.29
__kernel_clock_gettime LINUX_2.6.29
__kernel_gettimeofday LINUX_2.6.29

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_clock_getres LINUX_2.6.29
__kernel_clock_gettime LINUX_2.6.29
__kernel_gettimeofday LINUX_2.6.29

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_rt_sigreturn LINUX_2.6
__kernel_sigreturn LINUX_2.6
__kernel_vsyscall LINUX_2.6

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__kernel_sigreturn LINUX_2.5
__kernel_rt_sigreturn LINUX_2.5
__kernel_vsyscall LINUX_2.5
__vdso_clock_gettime LINUX_2.6 (Linux 3.15 以降で公開)
__vdso_gettimeofday LINUX_2.6 (Linux 3.15 以降で公開)
__vdso_time LINUX_2.6 (Linux 3.15 以降で公開)

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。 これらのシンボルはすべて "__vdso_" のプレフィックスなしでも利用できるが、 これらは無視し、 以下の名前だけを使うこと。

シンボル バージョン
__vdso_clock_gettime LINUX_2.6
__vdso_getcpu LINUX_2.6
__vdso_gettimeofday LINUX_2.6
__vdso_time LINUX_2.6

以下のテーブルは vDSO で公開されるシンボルの一覧である。

シンボル バージョン
__vdso_clock_gettime LINUX_2.6
__vdso_getcpu LINUX_2.6
__vdso_gettimeofday LINUX_2.6
__vdso_time LINUX_2.6

歴史

vDSO は元々は一つの関数 vsyscall であった。 古いカーネルでは、 プロセスのメモリーマップに "vdso" ではなくこの名前が見えるかもしれない。 時間が経つに連れて、 この仕組みはより多くの機能をユーザー空間に渡す有効な方法であると認識されるようになり、 現在の形の vDSO という形に見直しが行われた。

関連項目

syscalls(2), getauxval(3), proc(5)

Linux のソースコードツリーのドキュメント、例、ソースコード:

Documentation/ABI/stable/vdso
Documentation/ia64/fsys.txt
Documentation/vDSO/* (vDSO の使用例がある)
find arch/ -iname '*vdso*' -o -iname '*gate*'

この文書について

この man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 3.79 の一部 である。プロジェクトの説明とバグ報告に関する情報は http://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。

2014-08-19 Linux